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DRAGON BALL

2009年10月09日

dragonball.jpg『DRAGON BALL』といえば、日本人なら誰もが知っている大ヒット漫画です。なにしろ連載終了時には、集英社や東映など大会社のトップ会談が行われたという話もあるくらいですから、ただの漫画ではなく、もはや「DB産業」という日本を支える重要な資源といってもいいでしょう。唐突な感じだった最終回ですが、これも、事前に最終回を匂わしてしまうと株価など経済への影響が出てしまうための苦肉の策だったのではないでしょうか。

そんな大ヒット作の『DRAGON BALL』ですが、実はそんなに大したストーリーがあるわけではありません。練られた伏線があるわけでもなく、大ドンデン返しがあるわけでもないし、人間ドラマが展開することもなければ、登場人物が情熱的に号泣するようなシーンもありません。(『ONE PIECE』は、『DRAGON BALL』になかったその部分で勝負しているのです)基本的には強い敵と戦っていくというだけで、むしろ人気のなかった初期の頃の方が練られたストーリーがあったくらいです。

その何もない単純さこそが、気軽に読めて万人に受ける要素になっているということもあるでしょう。しかし、ただ単純なだけではあんなにワクワクはしません。その面白さには、鳥山明先生が「面倒くさがり」であるという資質が関わっていると思います。

有名な話ですが、鳥山先生はネームを描かずにいきなり下書きから始めます。「3度も同じ絵を描くのが面倒くさい」という理由で・・・。これでは、練られたストーリーができるはずがありません。しかし、ぶっつけ本番のそのやり方が、ライブ感を生み、後先考えないその場しのぎの展開が、読者にとっては「この後どうなるんだろう?」というワクワク感を生み出しているのです。実際、鳥山先生自身も描いた後で「どうしよう?」と思うことばかりだったと言います。要するに『ドラえもん』の「あやうし!ライオン仮面」の巻が現実に(私もタイムマシーンで来週のジャンプを読みたいと思ったものです)行われていたのです。

またストーリー展開においても、修行場面や恋愛場面などのシーンはすっ飛ばして、いきなり「●年後ー」となっています。こういうシーンは、多分「考えるのが面倒だし描いてても面白くない」という理由で描かないのだと思いますが、やはりそれは読者も同じで、修行よりもバトルが見たいのです。タルい部分は飛ばして、面白いところだけを楽しみたいのです。

この「面倒くさがり」という資質は、絵にも影響を与えています。有名なのは面倒だからスクリーントーンを使わないというもの。他にも面倒だからという理由で、スーパサイヤ人の髪は金色にした(黒ベタをしなくて済む)だとか、フリーザの最終形態をスッキリさせたなどいろいろあります。効果線もスピード線がほとんどで、他にも簡単な効果線を数種類しか使っていません。かめはめ波なんて、トーンもなくただ太い線で描かれているだけですから。

そもそも日本における絵の文化は、緻密にリアルに描くことよりも、簡単な線で表す表象主義的な方向で発展してきました。それを引き継いでいるのが、日本の漫画やアニメの2次元化された絵なのです。そういう意味では、面倒な線を極力少なくしていくという手法は、非常に日本の文化に合ったやり方だといえるでしょう。

そしてこの、絵における線の省略という点において、鳥山先生は天才なのです。絵が上手いといわれる鳥山先生ですが、絵の上手な漫画家は他にもいますし、実際にリアルな絵ということであれば、鳥山先生よりも上手な漫画家はたくさんいます。しかし、面倒だからと極力線を少なくした上でも、よりリアルに、より効果的に見せられるという点に置いては右に出るものはいないでしょう。バトルものの宿命であるインフレする「強さ」を、ストーリー展開やセリフに頼らずとも、そして、トーンを張ったりして過剰な演出をしなくとも、シンプルな線と構図だけで充分な説得力をもって表現してしまうのです。そしてその表現方法は、常に進化していました。これこそが『DRAGON BALL』の強みであり、長い間飽きられることなく人気があった理由だと思います。必要最小限の線で多くの情報を読者に与えることができるという、超合理的なまさに究極の完成された絵であるといえます。

更には、シンプルな絵であるということは、見やすいということと同時に、真似がしやすいということでもあります。『DRAGON BALL』のキャラは、少しでも絵心のある人なら模倣するのは簡単だと思います。天才によって過不足なくシンプル化された絵だからです。だからこそ、アニメ化などで他の人が描いた場合でも、他の漫画のように絵にあまり違和感を感じることがなく、だからこそ様々なジャンルへの進出が容易だったのでしょう。そしてついには「DB産業」を生み出したのです。

もしかしたら、鳥山先生は世界で一番成功した「面倒くさがり屋」なのかもしれません。そして、面倒なことはなるべくしないで面白い所だけを楽しみたいという、全人類の究極の本音を体現しているのが『DRAGON BALL』という作品なのかもしれません。


・・・などとエラそうなことを書きましたが、実際のところは物凄く真面目に取り組んでいたはずですし(ストーリー上の辻褄合わせを必ずやるあたりに真面目さが伺える)、絵だって他の誰よりも勉強し描いてきたからこそ手に入れた技術なのです。そういった部分を、「面倒くさいから」という言葉に置き換えて、決して読者に見せない鳥山先生のそのカラッとした明るい性格が『DRAGON BALL』には現れているし、本当は、その明るさこそが一番の人気のポイントだと思います。



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