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柔道部物語

2010年02月08日

judo.jpg柔道漫画の、というよりも部活漫画として最高峰の作品です。
三五十五(さんごじゅうご)という、今なら確実にDQNネームといわれてしまう主人公が、騙されて入った柔道部で次第にその才能を開花していく3年間を描いた作品です。笑いあり涙ありの非常に面白い漫画であると同時に、実は、あの『SLUM DUNK』に物凄い影響を与えた作品だと思います。何かのアンケートで井上先生も好きな作品として、この『柔道部物語』を挙げていたので間違いないでしょう。『SLUM DUNK』が、この漫画のバスケ版を目指していたと思われるほどに類似点が多くあります。

まずは、キャラクターの顔の書き方があります。部活漫画は、キャラの描き分けという点では非常に厳しい条件が揃っています。(同じような年齢で、同じような柔道着やユニフォームを着ているなど。)描き分けが上手くできないと『キャプテン翼』のように誰が誰だかわからなくなってしまうのですが、『柔道部物語』では思い切った顔(西野や樋口)にすることで描き分けられています。ほとんどのキャラが坊主なので、唯一の武器である髪型で変化をつけられなかったための苦肉の策かもしれませんが、主要キャラとは思えないほど思い切った顔(要はブサイク)で描かれています。主人公でさえあの眉毛ですから。しかしそのブサイクさが、キャラの描き分けだけでなく、世界感のリアルさを増している要因にもなっています。『SLUM DUNK』でも、イケメンが多い中、度々思い切った顔の人が登場し、そしてそれがリアルさを増しているというのは感じると思います。(余談ですが主人公が坊主になるというところも同じです。)

また『SLUM DUNK』の中で素晴らしいのは、試合中のプレイの瞬間をとらえた(でも躍動感のある)絵があると思います。これも『柔道部物語』で見られた表現です。三五が背負い投げにいく瞬間を描いた絵などは、本当に躍動感に溢れています。その瞬間の各選手の体勢や力の入り方などをしっかりと描くことによって、効果線などを使うよりもスピード感や躍動感を感じられる絵になっています。この表現は『SLUM DUNK』に限らず、以降のスポーツ漫画の表現に多大な影響を与えたと思います。

そして一番共通しているポイントは、部活としてのスポーツをリアルに描こうとしている点にあると思います。タイトルが表している通り、この漫画は「柔道部」のお話になっています。柔道の試合を描くことが本筋ではなく、学生時代の部活動というものを描こうとしています。初期の頃は部活の練習や人間関係が中心であり、試合はあくまでオマケ程度です。後半はさすがに試合中心になっていきますが、先輩たちの引退や西野と顧問の先生との関係など、部活であるという点は重要視しています。

盛り上がるはずの試合で、実にあっさりと負けることがあるという点も、部活動としてのリアルさが出ていると思います。どんなに努力をしても強豪校には勝てないという、現実では当たり前のことを、しっかりと漫画の世界に持ち込んでいます。だからこそ勝負の行方に手に汗を握るのです。『SLUM DUNK』でもその『柔道部物語』的リアリズムは徹底しており、桜木はすぐに名プレイヤーになるわけではなく、三井はすぐにスタミナが切れ、そして山王には勝てないのです。まあ実際は編集部の意向で勝ってしまいましたが、作者は勝つことを最後まで拒んだといいます。その次の試合で試合場面もなくあっさりと負ける演出が、作者が最後にかました『柔道部物語』的リアリズムの真骨頂だといえるのではないでしょうか。

ともあれ『SLUM DUNK』は関係なくても、部活漫画としては大傑作です。かつて運動部に所属したことがある人であれば、必ず共感できる場面があることでしょう。マイベストシーンは鷲尾の最後の試合です。映画『ROOKIES』で泣いた人がいたなら、このシーンを見て本当の部活ドラマというものを知って欲しいです。


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DRAGON BALL

2009年10月09日

dragonball.jpg『DRAGON BALL』といえば、日本人なら誰もが知っている大ヒット漫画です。なにしろ連載終了時には、集英社や東映など大会社のトップ会談が行われたという話もあるくらいですから、ただの漫画ではなく、もはや「DB産業」という日本を支える重要な資源といってもいいでしょう。唐突な感じだった最終回ですが、これも、事前に最終回を匂わしてしまうと株価など経済への影響が出てしまうための苦肉の策だったのではないでしょうか。

そんな大ヒット作の『DRAGON BALL』ですが、実はそんなに大したストーリーがあるわけではありません。練られた伏線があるわけでもなく、大ドンデン返しがあるわけでもないし、人間ドラマが展開することもなければ、登場人物が情熱的に号泣するようなシーンもありません。(『ONE PIECE』は、『DRAGON BALL』になかったその部分で勝負しているのです)基本的には強い敵と戦っていくというだけで、むしろ人気のなかった初期の頃の方が練られたストーリーがあったくらいです。

その何もない単純さこそが、気軽に読めて万人に受ける要素になっているということもあるでしょう。しかし、ただ単純なだけではあんなにワクワクはしません。その面白さには、鳥山明先生が「面倒くさがり」であるという資質が関わっていると思います。

有名な話ですが、鳥山先生はネームを描かずにいきなり下書きから始めます。「3度も同じ絵を描くのが面倒くさい」という理由で・・・。これでは、練られたストーリーができるはずがありません。しかし、ぶっつけ本番のそのやり方が、ライブ感を生み、後先考えないその場しのぎの展開が、読者にとっては「この後どうなるんだろう?」というワクワク感を生み出しているのです。実際、鳥山先生自身も描いた後で「どうしよう?」と思うことばかりだったと言います。要するに『ドラえもん』の「あやうし!ライオン仮面」の巻が現実に(私もタイムマシーンで来週のジャンプを読みたいと思ったものです)行われていたのです。

またストーリー展開においても、修行場面や恋愛場面などのシーンはすっ飛ばして、いきなり「●年後ー」となっています。こういうシーンは、多分「考えるのが面倒だし描いてても面白くない」という理由で描かないのだと思いますが、やはりそれは読者も同じで、修行よりもバトルが見たいのです。タルい部分は飛ばして、面白いところだけを楽しみたいのです。

この「面倒くさがり」という資質は、絵にも影響を与えています。有名なのは面倒だからスクリーントーンを使わないというもの。他にも面倒だからという理由で、スーパサイヤ人の髪は金色にした(黒ベタをしなくて済む)だとか、フリーザの最終形態をスッキリさせたなどいろいろあります。効果線もスピード線がほとんどで、他にも簡単な効果線を数種類しか使っていません。かめはめ波なんて、トーンもなくただ太い線で描かれているだけですから。

そもそも日本における絵の文化は、緻密にリアルに描くことよりも、簡単な線で表す表象主義的な方向で発展してきました。それを引き継いでいるのが、日本の漫画やアニメの2次元化された絵なのです。そういう意味では、面倒な線を極力少なくしていくという手法は、非常に日本の文化に合ったやり方だといえるでしょう。

そしてこの、絵における線の省略という点において、鳥山先生は天才なのです。絵が上手いといわれる鳥山先生ですが、絵の上手な漫画家は他にもいますし、実際にリアルな絵ということであれば、鳥山先生よりも上手な漫画家はたくさんいます。しかし、面倒だからと極力線を少なくした上でも、よりリアルに、より効果的に見せられるという点に置いては右に出るものはいないでしょう。バトルものの宿命であるインフレする「強さ」を、ストーリー展開やセリフに頼らずとも、そして、トーンを張ったりして過剰な演出をしなくとも、シンプルな線と構図だけで充分な説得力をもって表現してしまうのです。そしてその表現方法は、常に進化していました。これこそが『DRAGON BALL』の強みであり、長い間飽きられることなく人気があった理由だと思います。必要最小限の線で多くの情報を読者に与えることができるという、超合理的なまさに究極の完成された絵であるといえます。

更には、シンプルな絵であるということは、見やすいということと同時に、真似がしやすいということでもあります。『DRAGON BALL』のキャラは、少しでも絵心のある人なら模倣するのは簡単だと思います。天才によって過不足なくシンプル化された絵だからです。だからこそ、アニメ化などで他の人が描いた場合でも、他の漫画のように絵にあまり違和感を感じることがなく、だからこそ様々なジャンルへの進出が容易だったのでしょう。そしてついには「DB産業」を生み出したのです。

もしかしたら、鳥山先生は世界で一番成功した「面倒くさがり屋」なのかもしれません。そして、面倒なことはなるべくしないで面白い所だけを楽しみたいという、全人類の究極の本音を体現しているのが『DRAGON BALL』という作品なのかもしれません。


・・・などとエラそうなことを書きましたが、実際のところは物凄く真面目に取り組んでいたはずですし(ストーリー上の辻褄合わせを必ずやるあたりに真面目さが伺える)、絵だって他の誰よりも勉強し描いてきたからこそ手に入れた技術なのです。そういった部分を、「面倒くさいから」という言葉に置き換えて、決して読者に見せない鳥山先生のそのカラッとした明るい性格が『DRAGON BALL』には現れているし、本当は、その明るさこそが一番の人気のポイントだと思います。




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